【iPS細胞で何がどこまでできるのか?】

【iPS細胞で何がどこまでできるのか?】
iPS細胞(induced pluripotent stem cells)は、「万能細胞」ともいわれ、体をつくるあらゆる細胞に成長する能力を持つ細胞です。京都大学の山中伸弥教授が世界で初めて作製に成功し、2012年にノーベル生理学 ・医学賞を受賞しました。iPS細胞は、大人の皮膚などの細胞に数種類の遺伝子を導入してつくります。さまざまな細胞や組織、臓器に分化する能力を持つ“細胞のもと”であり、再生医療をはじめ医療全般への応用が期待されています。
iPS細胞の登場以前は、受精卵から取り出した「ES細胞」と呼ばれる細胞が、再生医療の研究に使われていました。しかし、卵子が必要であることや、初期胚を破壊して細胞を作製することなどから倫理面で使用の是非が問われています。iPS細胞は卵子を必要とせず人工的につくれるため、医療応用しやすいのがES細胞との大きな違いです。
iPS細胞から発した治療法や新薬は、実用化を視界に捉えるところまで歩みを進めています。2014年にはiPS細胞から作製した網膜の細胞を移植する臨床研究が、2017年には骨にまつわる難病「進行性骨化性線維異形成症」の候補薬の臨床試験が、2018年8月にはiPS細胞から作った神経細胞をパーキンソン病患者の脳内に移植する世界初の臨床試験が、それぞれ開始されているという。

朝日新聞が調べたところ、8社がiPS細胞を使う製品を開発していた。対象の病気は、目の網膜の病気である加齢黄斑変性と網膜色素変性、パーキンソン病、心不全(3社)、脊髄(せきずい)損傷、代謝性肝疾患、がん(2社)、1型糖尿病、血液の病気など。
神経や心臓に対する再生医療の研究も後に続いています。パーキンソン病治療のため、脳内でドーパミンという物質を放出する神経細胞を、iPS細胞でつくり移植する臨床研究の準備が整いました。
これまで治療困難とされていた脊髄損傷も、iPS細胞を用いた再生医療による回復が期待されています。今は動物実験の段階ですが、複数の研究でiPS細胞由来の神経幹細胞を移植することによる修復効果が報告されています。
心筋梗塞や拡張型心筋症が原因で起こる心不全においても、iPS細胞から心筋細胞をつくって心臓に注射したり、シート状にして心臓に貼り付けたりする治療方法の研究が進んでおり、臨床研究に向けて準備が整いつつあります

世界初、ips細胞からヒトの肝臓の作成に成功

再生医療の研究対象でもっとも難しいのが臓器です。複雑な立体構造をもち、血流があり代謝やホルモン産生などさまざまな機能を持っているからです。
従来のiPS細胞を使った再生医療の研究は、「細胞をつくる」ことが主流。しかし、谷口教授のチームは、iPS細胞から「臓器をつくる」ことを目標に研究を進め、2013年に世界で初めて、複雑な血管構造を持つ立体的なミニ肝臓(肝芽)をつくり出しました。肝硬変など、重い肝臓病を治す力を秘めています。
この研究のヒントになったのは、母親のお腹の中にいる胎児の臓器ができていくプロセス。ヒトのiPS細胞からつくった肝臓のもとになる細胞、血管のもとになる細胞、それらを定着させる接着剤のような役割を果たす細胞、この3つをシャーレに入れて培養すると、約2日後に、もこもことした立体構造へ変化しました。これが「肝芽」と呼ばれる肝臓のもとになる組織です。マウスに移植すると、血管網ができて血液が流れ、「肝芽」が臓器に成長。ヒトの肝臓として機能することが確認されました。
この発見が史上初の、iPS細胞を使った臓器再生として、英国『ネイチャー』誌をはじめ、国内外の科学誌に掲載されました。移植用の臓器が不足するなか、人工的に臓器をつくることができれば、一人でも多くの人の命を助けられるのです。

ips細胞を使った今後の見通し

現段階でできたのはあくまでも「肝臓の芽」であり、胎児の中にある肝臓と同じ未熟な状態。これを患者に移植し、患者の体内で一人前の肝臓に育てることで初めて肝臓として機能し、治療の効果が表れるというのが実用化のイメージです。
肝臓の再生医療は、2019年に、ヒトに対する第1例目の臨床研究を実施することを目標に準備が進められています。おもに安全性の確認が目的であり、肝臓の酵素欠損症という希少疾患が対象となりますが、将来的には患者数が最も多い肝硬変などへの適応拡大を目指しています。
さらに、肝臓以外の臓器への応用も研究が進められています。研究チームでは膵臓と腎臓の再生に取り組んでおり、これらの一部の構造について、肝臓と同じやり方が応用可能であることがわかってきています。今後に期待ができますね。

(出典sony生命)

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